アスベストと肺がんの関係|潜伏期間・労災認定基準・公的救済制度を解説
公開日:2026-05-20 最終更新:2026-10-11
本記事は医療情報の参考提供を目的としています。 具体的な症状・治療・診断については必ず医療機関にご相談ください。健康被害に関する最新情報は厚生労働省石綿総合情報ポータル、国立がん研究センター がん情報サービス等の公的機関の情報をご確認ください。
石綿(アスベスト)のばく露から肺がんの発症までには、一般に15〜40年の長い潜伏期間があり、ばく露量が多いほど肺がんの発生率が高いことが確認されています(環境省資料)。仕事で石綿を扱った方の肺がんは労災保険の対象になることがあり、労災で補償されない方には石綿健康被害救済制度があります。
肺がんは石綿ばく露だけで起きる病気ではないため、石綿による肺がんを一般の肺がんと見分けるのは難しく、わが国では職歴と臨床所見(石綿肺や胸膜プラークの有無、肺に残った石綿繊維・石綿小体の量など)をもとにした基準が設けられています(環境省資料)。本記事では、アスベストと肺がんの関係・労災認定基準・公的支援制度を、厚生労働省・環境再生保全機構等の公開情報に基づいて整理します。

アスベストは肺がんの原因になりますか?
はい。石綿は肺がんの原因の一つで、厚生労働省は石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんを、一定の要件のもとで業務上の疾病と認めています。喫煙と重なると、肺がんで亡くなる危険がさらに大きくなるという研究があります。
環境省の資料「石綿に関する基礎知識」では、次のように整理されています:
- 1955年に Doll がイギリスの紡織工場で行った疫学調査で、20年以上働く労働者の肺がん死亡率は一般の住民の13.7倍だった
- 石綿ばく露量が多いほど、肺がんの発生率が高い
- 引用された研究(Hammond & Selikoff 1979)では、石綿ばく露も喫煙もない人を1.0とした肺がん死亡の相対危険比が、石綿ばく露のみ5.17、喫煙のみ10.85、両方53.24だった
ただし、肺がんの原因の特定には、ばく露歴・喫煙歴・医学的所見をあわせた判断が必要です。
出典:環境省「石綿に関する基礎知識」1.4.2 肺がん・表1.4.2(確認日 2026-10-11)
潜伏期間はどのくらいですか?

石綿のばく露から肺がんの発症までには、一般に15〜40年の長い潜伏期間があるとされます(環境省資料)。同じ資料では、中皮腫の潜伏期間は20〜50年とされています。
押さえておきたい点:
- 厚生労働省の労災認定の要件では、最初の石綿ばく露作業を始めてから10年未満で発症したものは除かれます
- 石綿を含む製品の製造・使用等は2006年9月から原則として禁止されていますが(環境省資料)、それ以前に石綿を扱った方は、長い年月がたってから発症することがあります
- 石綿健康被害救済制度は、労災保険などで補償されない方も対象にしています(環境再生保全機構)
どのような症状が出ますか?
肺がんは、早期には症状がみられないことも多く、主な症状は咳や痰、血痰、胸の痛み、動いたときの息苦しさや動悸、発熱などです(国立がん研究センター)。いずれも他の呼吸器の病気と共通する症状のため、気になる症状があれば医療機関を受診してください。
肺がんの主な症状(国立がん研究センター がん情報サービスより):
- 咳や痰(最も多い症状)
- 血痰(痰に血が混じる)
- 胸の痛み
- 動いたときの息苦しさや動悸
- 発熱
- 脳や骨などに転移すると、頭痛やふらつき、背中や肩の痛みなど
同サービスでは、原因が分からない咳や痰が2週間以上続く場合や血痰が出る場合、原因が分からない発熱が5日以上続く場合には、早めに近くの医療機関を受診するよう勧めています。石綿を扱った経験がある方は、受診のときに医師へ伝えましょう。
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん」(確認日 2026-10-11)
労災認定の基準は何ですか?
厚生労働省の認定基準では、石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんで、医学的所見と石綿ばく露作業の従事期間の組み合わせ(下の①〜⑥)のいずれかに当たると、業務上の疾病と認められます。相談・請求の窓口は都道府県労働局または労働基準監督署です。
肺がんの労災認定の要件(厚生労働省パンフレット「石綿による疾病の労災認定」より):
| 要件 | 医学的所見 | 石綿ばく露作業の従事期間 |
|---|---|---|
| ① | 石綿肺所見(胸部エックス線写真の像が第1型以上) | — |
| ② | 胸膜プラーク所見 | 10年以上 |
| ③ | 広範囲の胸膜プラーク所見 | 1年以上 |
| ④ | 石綿小体または石綿繊維の所見(例:石綿小体が乾燥肺重量1g当たり5,000本以上) | 1年以上 |
| ⑤ | びまん性胸膜肥厚に併発(びまん性胸膜肥厚の認定要件を満たすもの) | — |
| ⑥ | —(石綿紡織製品製造・石綿セメント製品製造・石綿吹付の「特定の3作業」) | 5年以上 |
※ 最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限らない)を始めてから10年未満で発症したものは除かれます。②の石綿製品の製造工程の作業と⑥は、平成8年以降の従事期間を実際の1/2として計算します。要件を満たさなくても、総合的な判断で業務上と認められることがあります。
「石綿ばく露作業」の例(同パンフレットより):
- 石綿製品の製造工程における作業
- 石綿の吹付け作業
- 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱・保温のための被覆またはその補修作業
- 石綿製品の切断などの加工作業
- 石綿製品が被覆材・建材として使われている建物などの補修・解体作業
- 石綿製品が使われている船舶・車両の補修・解体作業
これらと同程度以上に石綿粉じんにばく露する作業や、周辺で間接的にばく露する作業も該当します。
出典:厚生労働省「石綿による疾病の労災認定」(確認日 2026-10-11)
労災認定された場合の給付は?
業務災害の保険給付として、療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付・遺族補償給付・葬祭料・傷病補償年金・介護補償給付が定められています(労働者災害補償保険法12条の8)。
| 給付名 | 内容 |
|---|---|
| 療養補償給付 | 業務上の病気の療養(治療など) |
| 休業補償給付 | 療養のため働けず賃金を受けない日の4日目から、1日につき給付基礎日額の60%(同法14条1項) |
| 傷病補償年金 | 療養の開始後1年6か月を経過しても治っておらず、傷病等級に当たる場合に年金を支給(同法12条の8) |
| 障害補償給付 | 障害が残った場合 |
| 遺族補償給付 | 労働者が亡くなった場合の遺族へ、遺族補償年金または遺族補償一時金(同法16条) |
| 葬祭料 | 葬祭を行う方へ |
| 介護補償給付 | 介護を受けている場合 |
金額の計算や上乗せの支給金などは、労働基準監督署で確認してください。労災保険の遺族補償給付の請求権は、労働者が亡くなった日の翌日から5年で時効になります(厚生労働省パンフレット)。
石綿救済法の対象になる場合は?

石綿を吸い込んだことによる肺がんで、労災保険などで補償されない方(療養中の方や、亡くなった方の遺族)は、石綿健康被害救済制度の対象になります。認定は独立行政法人環境再生保全機構が行います。
「石綿による健康被害の救済に関する法律」は2006年(平成18年)3月27日に施行され、指定疾病は中皮腫・肺がん・著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚の4つです(環境再生保全機構)。仕事以外で石綿を吸い込んだ方も、労災保険などで補償されない場合はこの制度の対象になります。
主な給付内容(環境再生保全機構の公開情報。令和7年4月1日現在):
- 療養中の方:医療費(健康保険等の給付を除いた自己負担額)、療養手当(月額103,870円)
- 認定後に亡くなった場合:葬祭料(199,000円)、未支給の医療費等、救済給付調整金
- 救済制度に申請する前に肺がん・中皮腫で亡くなった場合:遺族に特別遺族弔慰金(2,800,000円)と特別葬祭料(199,000円)
また、石綿による病気で亡くなった労働者の遺族が、病気の原因が仕事だと長く気付かなかったことなどで労災の遺族補償給付の請求権を時効で失った場合は、「特別遺族給付金」を請求できます。これは厚生労働大臣が支給する制度で、相談・請求は都道府県労働局または労働基準監督署です(石綿健康被害救済法59条)。対象は法律の施行から20年を経過する日の前日までに亡くなった方の遺族で、請求は施行日から26年を経過するまでです。
※ 金額・請求期限は改定されることがあります。最新の情報は環境再生保全機構・厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
出典:環境再生保全機構「救済給付の種類と支給額」、石綿による健康被害の救済に関する法律(e-Gov)(確認日 2026-10-11)
労災と石綿救済法は併用できますか?
同じ病気について二重には受け取れません。救済制度は労災保険などで補償されない方のための制度で、たとえば医療費は、他の法令で医療の給付が行われる場合、その限度で支給されません(石綿健康被害救済法26条)。
相談先の目安:
- 労働者として石綿を扱った方・その遺族 → 都道府県労働局または労働基準監督署に労災保険の相談・請求
- 遺族補償給付の請求権が時効で消えた労働者の遺族 → 労働基準監督署に特別遺族給付金の相談
- 労災保険などの対象にならない方(仕事以外で石綿を吸い込んだ方など) → 環境再生保全機構に救済制度の申請
どちらに当たるか分からないときは、両方の窓口に相談してください。
早期発見のためにできることは?
石綿を扱った経験がある方は、定期的に健康診断を受け、受診のときにその経験を医師に伝えることが大切です。喫煙は肺がんの発生要因の一つで、石綿ばく露と重なると危険がさらに大きくなるという研究があるため(環境省資料)、禁煙も役立ちます。
できること:
- 定期的な健康診断(胸部エックス線検査など)を受ける
- 石綿を扱った職歴・期間をメモしておき、受診時に伝える
- 禁煙
- 原因が分からない咳や痰が2週間以上続く、血痰が出るなどの場合は早めに受診する(国立がん研究センター)
- 石綿を扱う業務に従事し、胸膜肥厚などの所見や一定の作業経験の年数などの要件に当たる方は、離職の際または離職後に都道府県労働局長から健康管理手帳の交付を受け、国の健康診断を受けられます(労働安全衛生法67条・労働安全衛生規則53条)
新規曝露を防ぐためにはどうすれば?
解体・改修工事を行う際は、資格者による事前調査と法令に沿った除去工事を依頼してください。吹付け石綿や石綿を含む断熱材・保温材・耐火被覆材の除去などは作業開始14日前までの届出が必要なため(大気汚染防止法18条の17)、「即日除去」をうたう業者は事前調査や届出を省いているおそれがあり、近隣住民・作業員の曝露を引き起こす危険があります。
新規曝露を防ぐための社会的予防策:
- 建物の解体・改修では、石綿含有の有無の事前調査が元請業者などに義務付けられ、発注者は書面で結果の説明を受ける(大気汚染防止法18条の15・石綿障害予防規則3条)。説明の内容を確かめる
- 2023年10月1日以降に着工する建築物の工事では、建築物石綿含有建材調査者などの資格者が調査する(石綿障害予防規則3条4項)
- 除去工事は、隔離・湿潤化などの法令の措置をとる業者へ依頼
- マニフェスト写しの開示が可能な業者を選定
- 無資格・「即日除去」を謳う業者は避ける(届出が必要な作業は、作業開始14日前までの届出が必要)
よくある質問
Q1. 肺がんはアスベスト以外の原因でも発症しますか?
A. はい。肺がんの発生要因には環境や遺伝子異常などさまざまなものがあり、喫煙や受動喫煙も含まれます(国立がん研究センター)。石綿ばく露は肺がんの原因の一つで、環境省の資料に引用された研究では、石綿ばく露と喫煙が重なると肺がんで亡くなる危険がさらに大きくなっていました。医学的な判断は医療機関にご相談ください。
Q2. 労災認定の基準は何ですか?
A. 厚生労働省の認定基準では、石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんで、①石綿肺の所見がある、②胸膜プラークの所見があり石綿ばく露作業に10年以上従事、③広範囲の胸膜プラークの所見があり1年以上従事、④一定量以上の石綿小体・石綿繊維の所見があり1年以上従事、⑤びまん性胸膜肥厚に併発、⑥石綿紡織製品製造・石綿セメント製品製造・石綿吹付の作業に5年以上従事、のいずれかに当たると業務上の疾病と認められます。最初の石綿ばく露作業から10年未満で発症したものは除かれます。要件を満たさなくても総合的な判断で認められることがあるため、労働基準監督署にご相談ください。
Q3. 労災対象外でも救済を受けられますか?
A. はい。石綿による健康被害の救済に関する法律(石綿健康被害救済制度)では、労災保険などで補償されない方の石綿による肺がんも対象になり、療養中の方には医療費・療養手当などが支給されます。窓口は独立行政法人環境再生保全機構です。なお、労働者の遺族が労災の遺族補償給付の請求権を時効で失った場合の「特別遺族給付金」は、厚生労働省の制度で、労働基準監督署に請求します。
まとめ
石綿ばく露は肺がんの原因の一つで、潜伏期間は一般に15〜40年、喫煙と重なると危険がさらに大きくなるという研究があります。仕事で石綿を扱った方の肺がんは厚生労働省の認定要件(①〜⑥)に当たれば労災の対象になり、労災で補償されない方には石綿健康被害救済制度があります。石綿を扱った経験のある方は禁煙と定期的な健康診断が大切で、社会全体としては解体・改修時の有資格者による事前調査と法令通りの除去工事が新規曝露の防止に直結します。
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